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抄録のご紹介ページ(企画演題)

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特別講演 /小児ぜんそく治療の歴史・180度の大転換

  • 9 月 9 日(土)15:50 ~ 17:00 G301+G302(3 階)
  • 司会 : 山本 淳(星川小児クリニック)
小児ぜんそく治療の歴史(180 度の大転換はどのようにしておこったのか)
  • 西川 清((医)にしかわクリニック)
 現在気管支喘息は気道炎症であり、allergy のメカニズムも明らかになり、定期吸入と生物学的製剤でいとも簡単に治療できる時代。しかしここに至るまでに日本の医療史上類をみない大転換があったことを知る Dr ももう少なくなってきた。その治療の大転換の渦中にいた演者としては、若い先生方にその歴史的事実をお話しし、疾患の病態・症状と治療について常に目を見開いてみる必要があることをお伝えしたい。30 数年前まで喘息は、精神心理的疾患、母原病、β 2 吸入過使用による気道攣縮などが原因とされ、鍛錬療法心理治療などが行なわれていたが、患者の症状は非常に重症になり、夜間救急外来や ICU のメインの疾患となり、それでも薬を手控え、喘息死も高頻度にみられていた。今考えれば全ての医者が集団催眠にあるいはマインドコントロールに罹っていた。発作洪水に疲弊しすがる思いで開始した DSCG+ 少量β 2 定期吸入の驚くべき効果を目の当たりにし、症例を重ね学会で発表し始めたが、そこには予想以上の逆風が待っていた。

特別シンポジウム/次世代へのバトン

  • 9 月 10 日(日)8:50 ~ 11:20 メインホール G3 + G4(1 階)
  • 司会 : 横田 俊一郎(横田小児科医院)、崎山 弘(崎山小児科)
五十嵐正紘さんから受けた「研究活動のバトン」を 皆さんに託します
  • 絹巻 宏(絹巻小児科クリニック)
 本学会の研究活動の基礎を作ったのは、故・五十嵐正紘さん(1940-2008)です。五十嵐さんは「小児プライマリケアの学問化」と「研究発表の場の確保」を目指して、日本外来小児科学研究会の設立(1991)に奔走し、設立後は外来小児科学研究の活性化に尽力されました。多くの会員がその指導を受けて研究に取り組み、成果を挙げてきました。本講演では、皆さんの記憶に留めて頂きたいこととして、五十嵐さんがなぜ研究会設立を目指したか、設立後に何を行ったかを紹介し、本学会における研究活動の意義・重要性について私見を交えお話しします。

私がバトンとして渡したいものは何でしょう?
  • 原 朋邦(医療法人社団皆誠会 はらこどもクリニック)
 1991 年、学会設立の推進者であった徳丸實さんを会長にして発足しましたが、204 人が参加しましたが、今回の演者は全てそうです。年次集会だけでなく色々の学びの機会を創り良くも悪くも歴史みたいなものを創ったことになるかと思います。然し、今回の企画で今行っていることを継承して欲しいということが良い事かとなると問題はある様に思います。私共は学びを企画し、知識を得てそれを日常の自分の仕事に活用しました。とても感激的な経験もできました。然し、心残りもあります。子どものヘルスケアの基本的な面に関わりながら、医学教育への貢献度やホスピタルケアラーとの共同の学びや研究の面です。現在は知識や技術の習得も便利になり、意見の交流も便利な方法が登場しました。学会は構成員である学会員の意志でどのようにも活動ができます。子どもに関わる全ての職種との連携の質の向上を祈ることをバトンにしたいと思います。

「小児科クリニック」は、プライマリ・ケアの知識と技能、態度を学び、“やり甲斐や魅力”を感じる場である
  • 武谷 茂(久留米大学医学部小児科学講座)
 次世代へのバトンとして、教育部会のプロダクトの中から「クリニック実習」を挙げたい。
 開業医のクリニックは、外来・総合医療のアートとサイエンスを体験学習できる最良の場である。そこで医学生は、患児がもつプロブレムが良好なコミュニケ―ションのもとで解決されていく過程を生々しく経験し、「医のあり方」を考えながら自己の医師像を描くのである。
 2001年に当学会が企画した『全国医学生のための小児プライマリ・ケア実習』は、小児科指導医 167 名でスタートし、5年間に約600 名の医学生が参加した。実習が好評であったことから、すぐに多くの大学がカリキュラムにクリニック実習を組み込むようになった。さらに実習希望者は初期研修医や看護学生まで拡がり、病児保育界にも浸透しつつある。
 今後の課題は、①クリニック実習(各論)を補完する「少人数講義(総論)」の実践、②看護師などスタッフの、トリア―ジ看護に必要な「ビジュアル小児看護学教育」の確立である。

コメディカル分野・院内報ネットワークと医療保育ネットワーク活動
  • 島田 康(しまだ小児科)
 学会には、年次集会、カンファランス、委員会、検討会 ( 勉強会 ) などとともにネットワークという活動もあリます。このネットワークの中で、コメディカルが主体となっているのが、院内報ネットワークと医療保育ネットワークです。これらのネットワークはともに、一般演題 ( 展示発表 ) や Workshop 開催から始まっています。子どもの医療に関わっているいろいろな立場・職種の方が、話題 ( 問題 )を取り上げ・広く意見を募り・共通の話題として語り合いそして日々の活動に結びつけています。子どもたちのために質の向上や我々が・我々でなければ・我々が行うべき研究 ( 検討 ) を継続して行なってきています。この二つのネットワークが、なぜ発足し・どのようにして活動を始め・どんなことを行なっているかをお話ししたい。そして、客席に座っている皆様も、ステージに上り、既存の活動への参加、新しく活動を始める、など自分達でもパフォーマンス出来るという伝統のバトンを引き継いでほしい。

次世代へのバトン~メディカルスタッフの連携~
  • 木下 博子(ほじん薬局(元大分こども病院薬剤室))
 本学会との出会いは第 2 回年次集会で、それから 30 年余り、活動の原点は、「患者さんのための小児医療は、医師だけが担うのではなく、コメディカルも一緒に」という故徳丸実先生のお話である。
 年次集会では、他院の方々と「〇〇はどうやっている? 」とアイデアの交換をした。そこで、「もっと多くの仲間と意見、アイデア交換の場を」と考え、コメディカルミーティングを企画した。その後、職種別のミーティングを経てワークショップへと展開した。しかし、中心になられていた方の退職に伴い、WS が開催できなくなった職種もある。コメディカルのほとんどは被雇用者であり、それが学会活動の壁になっているところもある。
 シンポジウムでは、本学会のコメディカルの皆さんに、ぜひ、引き継いでいただきたいこと、また、薬剤師の皆さんには、病院・調剤薬局薬剤師の立場から感じていることをお伝えし、次世代の方への「バトンタッチ」としたい。

特別セッション/災害と小児医療と私たち

開業医の災害ボランティアについて
  • 松田 幸久(まつだこどもクリニック)
私の被災地へのボランティアは、私の郷里の島原が普賢岳災害で被害を受けた時、全国の人たちからたくさんの支援をしてもらったことがきっかけだった。阪神大震災の時は、神戸の診療所に参加した。新潟の中越地震の時は必要な物品を聞いて送った。その後、東北大震災の時は、小児科医の仲間と岩手の大船渡、宮古市、陸前高田市を回った。子どもたちは、避難所の中でおとなしくしていたが、我々大人たちがシャボン玉、折り紙、風船などを持っていくと、顔が綻んできた。子どもたちの心のサポートや、保護者の悩みなどに答える形で活動した。音楽や、絵本の読み聞かせや、相談時間を設けて、母親の不安な気持ちによりそう活動をした。開業医が被災した現地に行って活動には、時間的に厳しいが、被災地に行かなくてもできることがある。被災地の人と連絡を取り、子どもたちに必要なもの、不足しているものを集めて送ることである。また、私の地元では、台風、土砂崩れ、大雨による河の氾濫などの危険性がつきまとう。みんなが災害に巻き込まれないためにも、日頃からの備えと、地域の人たちとの日頃からの付き合いや、行政との関わりも重要だと思う。また、地域の高校生バランティア団体などの若い力を取り込んでいくのも、今後の災害支援の一つに考えたい。

災害と小児科医~どんな時でも 私たちは 弱い人を守る~
  • 寺澤 大祐(岐阜県総合医療センター 新生児内科、公益財団法人 風に立つライオン基金 風の団 専門団、災害時小児周産期リエゾン)
日本の災害医療における支援体制は、阪神大震災を契機に大きく進んだ。阪神大震災の教訓をもとに作られた全国組織が DMAT だ。その後も台風、酷暑、豪雪など多くの災害を乗り越えながら被災者を守るための取り組みが進められてきた。
東日本大震災の後に大きく進んだものが、災害弱者である子供、障害児者、妊産婦への支援をするための専門組織「災害時小児周産期リエゾン」である。これは災害時に被災地の災害医療対策本部にリエゾンの資格を有する小児科医らが常駐し、医療機関支援、患者受け入れ・移送支援、保健支援など子供の総合医の視点から、DMAT
や災害医療コーディネーターと協力して調整業務を行うものである。
いつの時代も子供は弱い存在である。
災害ではその弱い存在がさらに浮き彫りになる。そんな時こそ私たち小児科医は、その専門領域の如何に問わず、子供の代弁者でありたいと思う。
今回の講演ではリエゾンの歴史と役割を概説しつつ、自らも被災者となったときの小児科医としての役割について、会場の先生方と共に考えたい。

シンポジウム1/COVID-19 それぞれの視点からの教訓

  • 9 月 9 日(土)9:10 ~ 11:40 メインホール G3 + G4(1 階)
  • 司会 : 中野 康伸(中野こどもクリニック) 、佐藤 和人(上大岡こどもクリニック)
横浜市における小児 COVID-19 医療体制構築と課題への対応、今後の展望 ~統括実務担当者の視点から~
  • 西村 謙一(横浜市立大学附属病院 小児科)
 COVID-19 は 2019 年 12 月に初めて、中国湖北省武漢市で報告された。2020 年 3 月以降には欧米を中心に急速に拡大し、パンデミックに至った。神奈川県においては、2020 年 2 月 6 日にダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に着岸し、“災害”として DMAT を中心に搬送調整がなされた。3 週間の搬送調整から得た経験により“神奈川モデル”が構築され、成人の医療体制の枠組みは 3 月下旬に完成した。しかし、この時点では小児の存在が考慮されておらず、県主要施設の小児集中治療医間で小児医療体制構築の必要性が認識された。4 月上旬に 4 大学小児科長と県立こども医療センター院長による会議が開催され、それから約 3 週間で、小児科学会神奈川県地方会を中心に小児医療体制を構築した。
 本講演では当初の医療体制構築の過程、社会や COVID-19 臨床像の変化から生じる課題への対応、その時々の思いを共有したい。

コロナ禍での乳幼児健診や保育園での対応等、子ども施策の振り返り
  • 岩田 眞美(横浜市こども青少年局)
 3 年余り続いた新型コロナへの対応、初めての緊急事態宣言、想定外の感染の拡がりや、先の見えない長期に渡る対策の継続、その中で、子どもに関係する行政の対応を中心に振り返ります。特に母子保健の分野では、妊娠期からの切れ目ない支援に欠かせない対人サービスで、判断や工夫が必要でした。「遅らせないで!子どもの予防接種と乳幼児健診」というチラシが国から出ましたが、乳幼児健診については、医療機関に委託した個別健診と、感染防止策を講じた上での区役所の集団健診を併用しました。子どもの成長には、適切な時期に健診や予防接種が受けられ、保護者が不安や疑問などをタイムリーに相談できる事が大切です。また、子どもの時間は大人とは違い、年齢ごと、月齢ごとで様々な体験をすることで心身を発達させていくため、その機会を確保する事が重要です。集団生活の場で求められる感染拡大防止、保育園でも休園判断等対応に苦労しながら様々な工夫をしました。

専門家会議等の委員の立場として考えた小児のCOVID-19
  • 岡部 信彦(川崎市健康安全研究所)
 人類は時々感染症の大流行に見舞われ、大きい犠牲を払いながら、その対策を進歩させてきている。近年でも AIDS、エボラ、SARS、パンデミックインフルエンザ、MERS と枚挙に暇がない。感染症が流行し始めると「子どもたちがまず危ない」「子どもたちの流行から大人に広がる」と考えられがちであるが、これらの多くは、まずは行動半径の広い大人での流行である。COVID-19 は、発生当初小中高などの全国一斉休校などが行われたが、実際は大人社会の広がりであり、長寿社会の中での高齢者の重症化・死亡が目立つものであった。2023 年 1 月の厚生労働省アドバイザリーボードでは「感染対策の合理性を考えるにあたっては、年代による特徴を考慮すべきである。ことに子どもにおいては、すこやかな発育・発達の妨げにならないような配慮が必要である。」との意見を提出しているが、これからは高齢者対策とともに、大人と違う子どもを視点においた対策も重要である。

シンポジウム2/子どもと家族の関係性に着目した『こころの問題、愛着形成、発達障害等』への多角的な視点およびアプローチ

  • 9 月 9 日(土)14:30 ~ 17:00 メインホール G3 + G4(1 階)
  • 司会 : 涌水 理恵(筑波大学)、蜂谷 明子(蜂谷医院小児科)
子どもと家族の関係性に着目した『こころの問題、愛着形成、発達障害等』への多角的な視点及びアプローチ
  • 明和 政子(京都大学大学院教育学研究科)
 日本では、サイバー空間とフィジカルの空間を高度に融合させた社会、Society 5.0 が目指されています。新型コロナウイルス感染症の拡大が、この流れを一気に加速させました。Society5.0 では、利便性の向上、省力化(無駄のなさ)に価値がおかれています。しかし、これは完成した脳をもつ大人を前提としているにすぎません。哺乳類動物の一種であるヒトは、「密・接触」を基本とする環境に適応して進化してきた生物であり、他個体との身体接触なしには生存すらできません。とくに、生後早期の経験は脳と心の発達、さらには、その後の発達にも大きく影響します。大人にとっては一見無駄にもみえる多様な経験を積み重ねながら、ヒトの脳と心(人間らしさ)はゆっくり育まれていくのです。今、私たちが生きる社会、環境は未曾有のスケールで変化しています。今後、どのような未来を次世代人類に託していくべきなのか。皆さんとともに議論したいと思います。

関係性を取り扱うことの難しさ-家族遊戯療法という試み
  • 川畑 友二(クリニック川畑)
 児童精神科では最近まで発達障害の診断が席巻していたため、愛着の問題として捉えられることは少なかった。しかし、被虐待のケースも散見されるようになり、また M. Rutter によるルーマニアの孤児の研究や遺伝子のエピジェネティクスの概念から、発達に関する関係性の重要性が注目され始めている。しかし、一般的なペアレントトレーニングやプレイセラピーと親子並行面接では「言葉で伝える」ことの限界があるため、関係性への関与が困難になることもある。 D. Starn は、妊婦や出産した女性が母性的な人に保護され、承認されたいと望む心理状態になるという「母性のコンステレーション」を指摘し、「良いお祖母さん転移」という言葉で育児への不安やストレスを抱えている母親、父親を支える存在の重要性を説いている。「孤立した子育て」は虐待の危険因子でもあるが、当院で行った「家族遊戯療法」を紹介し、親子の関係性にどのように関わるかという工夫について述べてみたい。

WISC 知能検査の正しい理解:発達障害の理解に役立てるために
  • 大六 一志((無所属)公認心理師)
 WISC は世界的に使用されている知能検査であり、日本でも広く使用されている。しかし残念ながら、実施法や解釈に関する誤解、また、不適切な活用をしばしば見かける。そこで本講演では、WISC 知能検査の正しい理解と活用について説明する。たとえば、① ASD や ADHD に特有の WISC 結果パターンは存在せず、WISC の検査結果は ASD や ADHD の鑑別診断の参考にはならない。WISC は知能検査であるが、ASD や ADHD は知能の障害ではないからである。また、② WISC は全ての知能領域を網羅している
わけではなく、読み書きやその障害の原因となる能力、また、計算の基礎力などは、WISC で測定することはできない。これらの領域について調べるには、他検査とバッテリーを組む必要がある。さらに、③検査結果のグラフが凸凹であると「能力に偏りがある」と報告するのをよく見かけるが、これは正しくない。WISC-IV の標準化データでは 90% 以上、WISC-V ではほぼ 100% の受検者で、検査結果のグラフは凸凹である。他にも時間の許す範囲で、WISC に関する誤解を解きたい。

子どものこころの診療における親子並行治療の実際
  • 山崎 知克(浜松市子どものこころの診療所)
 児童精神科診療では、子どものこころの問題と並行して親御さん(特に母親)の診療をすることが少なくない。演者が勤務する診療所(当院)では毎年子どもの初診数(約 700 名)のうち 15 ~ 20%の保護者にカルテ作成して薬物療法を含めた親子並行治療を実施している。当院の初診時問診では毎年 60 ~ 70% の家庭で保護者の被虐待歴、子どもへの虐待、保護者の精神障害、DV など家庭機能の脆弱さが見られている。子どものこころの診療では保護者の協力が不可欠となるが、親自身がこころの問題により生活に支障がある際には保護者の治療や支援が必要となる。平成 29 年度に親子並行治療となった 129 名の診断内訳ではPTSD20.2%、複雑性 PTSD13.2% であり、同年の子どもの PTSD 診断は 19 名(2.9%)であり、概して保護者の方が重症化していることが判明した。当日は親子並行治療の進め方をお示しすると共に、当院における逆境的小児期体験(ACEs)スコアの検討、精神科訪問看護についても報告予定である。

シンポジウム3/新型コロナウイルス感染症と Vaccine Hesitancy

  • 9 月 9 日(土)14:30 ~ 17:00 G401+ G402(4 階)
  • 司会 : 太田 文夫(おおた小児科)、片岡 正(かたおか小児科クリニック)
新型コロナウイルス感染症流行が国内の vaccine hesitancy に与えた影響
  • 勝田 友博(聖マリアンナ医科大学小児科学教室)
 2020 年以降,人類はコロナウイルス感染症 2019 (COVID-19) のパンデミックおよびそれに伴う COVID-19 ワクチンの緊急接種を経験した.COVID-19 ワクチンは,かつてないスピードで承認がなされ,実際に短期間で多くの国民への接種がなされた.その結果,実際に多くの人の健康と命を救う結果となったが,一方で,皮肉にもその迅速性が長期安全性の欠如という新たな不安を生む結果となり,また使用経験が乏しい mRNA ワクチンであったことも相まって,一部の国民においては vaccine hesitancyが発生した.特に国内における小児を対象とした COVID-19 ワクチン接種率は低迷している.小児においてはさらに COVID-19流行翌年の 2021 年以降,麻しん風しん (MR) ワクチンをはじめとした COVID-19 ワクチン以外のワクチン接種率低下が問題視されつつある.本シンポジウムでは,COVID-19 の流行が特に国内の小児およびその保護者に発生した vaccine hesitancy に与えた影響に関して皆様と議論させていただき,外来診療時における適切な対策を協議させていただきます.

新型コロナワクチンの国内外の有効性と安全性の評価
  • 菅谷 明則(すがやこどもクリニック)
 Vaccine Hesitancy の要因の一つには予防接種に対する信頼の低下がある。これにはワクチンそのものに対する信頼、接種する医療関係者に対する信頼、ワクチンの開発、製造、承認、推奨の過程に対する信頼などが含まれる。この中でもワクチンに対する信頼、有効性と安全性が大きく関与する。パンデミック時は接種対象者は多く、対象年齢も広い。接種開始早期に急激に接種数が増加する可能性もあり、さらに新型コロナワクチンは新しいモダリティのため、有効性と安全性を迅速に科学的に評価するシステムが必要である。また、接種率の向上のためには評価された有効性と安全性の情報を接種対象者、保護者、接種医療関係者に広く直接(メディアを介さず)に周知するシステムも必要である。日本の有効性と安全性の評価の現状を米国の状況と比較し、現在のVaccine Hesitancy との関連、今後の課題などについての私見をお話しする予定である。

小児科医にも潜んでいる Vaccine Hesitancy ~なんとなく納得していませんか?~
  • 藤岡 雅司(NPO 法人 VPD を知って子どもを守ろうの会、医療法人ふじおか小児科)
 国内における新型コロナワクチン接種は、成人の高い接種率にも関わらず、12 歳未満の接種率は極端に低迷した。演者のクリニックでも対象小児の保護者には繰り返し説明・啓発・勧奨を尽くした。しかし、まったく受ける気のないような保護者のいかに多かったことか。定期接種では 100%近い接種率であるにも関わらず、である。
 では、なぜこのようなことになってしまったのだろう。国・自治体、マスコミにも責任の一端はあるだろう。しかし、子どもたちや保護者と一番近いところにいる私たち小児科医はどうだっただろう。小児の新型コロナウイルス感染症を軽く考える、新型コロナワクチンを不要と思わせるなど、小児のワクチン接種が進まなくてもなんとなく納得していなかっただろうか。
 講演では、専門家も含めた小児科医の過去の言動を振り返り、小児科医に潜む Vaccine Hesitancy、その闇の世界を少しでも解き明かしたい。接種忌避が他の定期接種に拡散することを防ぐためにも。

「医師会、行政、メーカーとの連携と問題点」
  • 峯 眞人(医療法人自然堂峯小児科)
 3 年半前 COVID19 パンデミック宣言から約 1 年後に、臨時接種という形で慌ただしくワクチン接種が開始された。しかしこの時点では日本人に対する有効性や安全性に関するデータはなく、日本では一般的でない筋肉注射による接種、大規模会場での集団接種の実施、また歯科医師、臨床検査技師、救急救命士などによる接種の承認など、異例ずくめの接種対策が行われた。当然のことながら接種現場の準備や実施上の混乱や間違い接種の発生は想定され、この混乱は一般のワクチン接種への不安や不信、接種控えなどに結びつくと予想された。 接種開始前と接種開始後の各時期において、混乱や間違いを防ぐための各方面と協力しての資料作成や、周知などを短時間で実施することが急務となった。本シンポジウムでは混乱の回避、間違いの予防などを目的とした資料作成や周知の経緯及び、混乱対応と接種控え対策などについて言及する。

シンポジウム4/小さく生まれた赤ちゃんのクリニックでの子育て支援

  • 9 月 9 日(土)14:30 ~ 17:00 G314 + G315(3 階)
    司会 : 田中 秀朋(あかちゃんとこどものクリニック)、在本 祐子(上大岡こどもクリニック)
  • 【8月29日訂正】発表順を、豊島さん→坂上さん→藤塚さんと変更しました。
早産・低出生体重児の NICU 入院中から退院後の支援
  • 豊島 勝昭(神奈川県立こども医療センター新生児科)
 日本は超低出生体重児であっても救命率は 9 割近くに上昇し、脳性麻痺は1割未満に減少したが、新たな課題が明らかになりつつある。極低出生体重児の約3分の1にいわゆる < 発達障害 > と呼ばれる発達の特性や発達遅滞がある。医療的ケア児は増加している。
 早産・低出生体重児の家族の<障害感>は疾患や後遺症といった医学的な<重症度>とは必ずしも一致しない。早産・低出生体重児は成長と共に、自宅、療育、保育園・幼稚園、学校と生活の場所や支援者は変わり、家族は各地域において支援者との関係構築で < 障害感 > に直面しうる。継続的に心身の健康を見守れる小児医療の役割を実感する。
 早産・低出生体重児の家族が障害感少なく、地域社会で生活していくには、成長・発達の特性、患者家族の障害感などを共有しながら、地域の医療・保育・保健・療育・教育・福祉のそれぞれの尽力と連携で支えていきたい。

370gの出産と子育て~リトルベビーハンドブック作成への想い~
  • 坂上 彩(かながわリトルベビーサークル pena)
 2018 年に 24 週 370g の第 1 子となる女児を出産した経験を元に、2021 年に神奈川県で生まれた低出生体重児の家族会「かながわリトルベビーサークル pena」を設立する。
 この家族会では、当事者の家族同士や地域社会との繋がりを深めるために、交流会や写真展開催等の活動を行っている。
 また、正期産を基準とした母子手帳の使い難さに涙したことから、同じように苦しむ母親が一人でも減ることを願い、低出生体重児の母親の心に寄り添うことを目的とした母子手帳のサブブック「リトルベビーハンドブック」の作成を神奈川県へ要望し、当事者としてハンドブックの作成に携わっている。
 今回のシンポジウムでは、現在に至るまで消えない早産への罪悪感や NICU 入院中の想い、退院後の生活で困ったこと、当事者の母親達との交流で感じたこと等、当事者家族の想いをお伝えしたい。

家族の絆をつなぐための援助
  • 藤塚 真希(横浜市立大学大学院医学研究科看護学専攻)
 低出生体重児は NICU への入院や治療に伴い、家族とのかかわりが制限されてしまう。これは、家族との相互作用の積み重ねによる愛着形成を難しくするため、NICU では 24 時間面会やカンガルーケアなど様々な支援が行われている。家族も子どものケアに一緒に参加する“ファミリーセンタードケア”も注目されており、NICU 入院中であっても家族が家族として過ごせるようにすることが大切である。また、NICU 退院を見据えて、育児手技の獲得や多職種カンファレンスなどの退院支援も行われている。
 しかし、NICU を退院した後も、家族は不安な思いを抱いており、様々な支援を検討していく必要がある。低出生体重児が地域のクリニックを診察・健診・予防接種のために受診することは珍しくない。クリニック受診時に想定される場面について、「どのような声かけができるのか」「どのような点に注意するべきなのか」など、今後の援助につなげる機会にしたい。

シンポジウム5/小児科外来の「その先」を考えてみませんか ~発達障害者の就労支援施設での経験をお聞きして~

  • 9 月 10 日(日)8:50 ~ 11:20 G314 + G315(3 階)
  • 司会 : 太田 文夫(おおた小児科)
障害者のある子の就労における課題
  • 平林 計重(NPO 法人障害者の就労を支援する会)
 発達障害のある子の就労時の課題の第一は 2 次障害の克服です。しかし、それだけが就労時の問題ではありません。学齢期に障害を原因としていじめや差別を受けることによる、精神的な症状、学習の遅れや偏り、保護的な養育から依存性や経験不足等を抱えます。こうしたことが、就労に必要な意欲や態度の形成、就労のための知識や技能の獲得に大きな影響を与え、就労を困難にしています。 就労現場では、以下のような問題が起きています。
1 2 次障害克服の課題
2 学齢期に生じる様々な課題
3 障害から生じる課題
4 働く意欲・態度・知識・技能の形成の課題

カフェ・ハーモニーを利用する人たちの状況
  • 角口 由紀子(NPO 法人障害者の就労を支援する会)
 発達障害のある人といってもその困り感は人それぞれです。当施設を利用する以前の生活は・・・ ①在宅になり、居場所をなくしている。 ②普通高校や大学まで出たのに友達を作ることができず、コミュニティを持てない。 ③一度は就職したが、続かない。など、主にそんな人々が当施設を利用しています。そんな人々が通ってみようと思えるように一般社会の就労場所より仕事内容のハードルを低くしている当施設ですが、問題なく働ける人とここでも働くことが困難な人がいます。その差は何か。そこには、学齢期の過ごし方が影響しているように思われます。特別な支援を受け、障害特性の受容ができている人は困難の克服を目指すことができますが、学齢期に適切な支援がなく過ごした人は、傷害受容も難しく、一般就労を目指すまでに、かなり長い年月を要しています。

みんなで考えよう1/授乳・離乳の支援ガイド再考 ~なぜ卵黄が先なの?~

  • 9 月 9 日(土)9:10 ~ 10:20 G301+ G302(3 階)
  • 司会 : 福岡 圭介(福岡小児科アレルギー科)
乳児に卵黄、卵白を食べさせる時期のアンケート調査
  • 西村 龍夫(にしむら小児科)
 
↑当日会場内でスマートフォンを使った「その場でアンケート」を実施します。


 我々は 2023 年 3 月から 4 月までの 2 ヶ月間、生後 9-11 か月の児の保護者を対象に、補完食での卵白、卵黄の与え方に関するウェブアンケートを多施設共同で行った。回答数は 280 件であった。結果、保護者の 85.7%は卵黄を先に与えたと回答し、理由としては離乳食のガイドラインに記載があるからが最多であった。卵黄を開始した月齢は 6 [6-7] (Median[IQR]) であり、卵白は 8 [7-8] と卵白の方が遅かった (p<0.001)。調査時に 3.3%は卵黄を、10.6% は卵白を未だ与えていないと回答した。小児アレルギー学会から、鶏卵アレルギー発症予防のため皮膚炎のある児は生後 6 か月から微量の全卵を食べさせた方が良いという提言が出ているが、64.2%が知らないと答えた。提言を知らないと答えた群では、乳児湿疹があっても離乳中期(生後 7-8 か月)に卵白摂取を始めておらず、ガイドラインよりも卵白摂取が遅れていた。

なぜ卵黄が先か:日本の離乳指導の歴史から解き明かす
  • 瀬川 雅史(医療法人社団のえる小児科)
 わが国初の離乳の指針は、1958 年(昭和 33 年)の文部省「離乳基本案」で、卵黄は生後5か月から、全卵は7か月頃からと記載されている。卵黄が先である理由は、アレルギー症状の発生が心配されたからであった。わが国では当時アレルギーはほとんど問題になっていなかったが、卵アレルギーが多かった米国の離乳の指針にならったものであった。
 「離乳基本案」が出る以前、明治~昭和 20 年代までの離乳指導について、小児科教科書や育児書 28 冊を調べたところ、24 冊で卵黄を先に与えるように推奨されていた。その理由として、卵黄は栄養価が高く消化吸収が良い、卵白は消化が悪いということが記載されており、アレルギーに関する記載はない。昭和 30 年頃に行われた離乳に関する実態調査で、98.7%の母親が卵黄を先に与えているという結果が示されており、わが国では「離乳基本案」が出る前からすでに「卵黄が先」という離乳法が普及していたと考えられる。

みんなで考えよう2/乳児のスキンケアはどこまで必要?

  • 9 月 9 日(土)14:30 ~ 15:40 G301+ G302(3 階)
  • 司会 : 橋口 可奈(星川小児クリニック)
  • 【9月3日訂正】発表順を、西村さん→福家さんと変更しました。
乳児のスキンケアのアンケート調査
  • 西村 龍夫(にしむら小児科)
 我々は 2023 年 3 月から 4 月までの 2 ヶ月間、生後 9-11 か月の児の保護者を対象に、乳児の皮膚炎とスキンケアに関するウェブアンケートを多施設共同で行った。回答数は 280 件であった。71.4% は乳児湿疹があったと回答していたが、アトピー性皮膚炎と診断されていたのは 3.6% であった。ステロイド軟膏による治療は 65.7%が経験していた。過去にスキンケアの指導を受けたことがあると答えたのは 67.1%であり、現在スキンケアを行っていると答えたのは 93.6%、その中で 96.6%が 1 日1回以上
のスキンケアを行っていた。使用している薬剤はワセリンが 60.9%ともっとも多く、次いで市販の保湿剤、ヒルドイド ® 等のヘパリン類似物質であった。スキンケアの理由としては、皮膚の肌荒れ、かさつきを防ぐのが 98.9%と大多数を占め、将来のアトピーを防ぐためが 45.2%、食物アレルギーを防ぐが 29.9%であった。保護者のスキンケアに対する意識は高いが、その医学的な理由に関しては理解が進んでいないと思われた。

スキンケアのエビデンスはどこまで分かっている?
  • 福家 辰樹(国立成育医療研究センターアレルギーセンター)
 乳児期のアトピー性皮膚炎やバリア機能障害がその後の食物アレルギーや喘息、アレルギー性鼻炎の発症リスクになり得ることが数多く報告され、かつてハイリスク乳児への生後早期からの保湿スキンケアがアトピー性皮膚炎発症を 30 〜 50%程度予防するというパイロット研究が報告された。しかし近年の大規模ランダム化比較試験では有意な予防効果は認められない結果が報告されたばかりか、保湿剤使用が頻度依存性に食物アレルギー発症リスクを増加させるといった報告も登場し、塗布前に保護者は手を清潔にすべきとの考察もなされている。一方、セラミドリッチな保湿剤の頻回使用による食物感作の抑制効果を報告するものもあり、単に保湿という定義で括られない外用薬の内容全体を考慮する必要性も示唆される。現在もスキンケアが感作のリスクに影響を与えるかについて十分なエビデンスがあるとは言い難いが、本講演ではその一端を紹介させて頂きたい。皆さまの日常診療におけるご判断の一助となれば幸いである。

教育講演 1

  • 9 月 9 日(土)9:10 ~ 10:10 G401+ G402(4 階)
  • 司会 : 原木 真名(まなこどもクリニック)
  • 【専門医:小児科領域講習】(現地のみ)
小児の腹痛を超音波で診る~「壁の向こう側」が見えてくる~
  • 河野 達夫(東京都立小児総合医療センター 放射線科)
 小児の腹痛診療では超音波検査が非常に有用である。 触診や聴診などでは全貌がつかめない腹部を、簡便に低侵襲的に短時間で評価することが可能である。重篤な疾患の代表である中腸軸捻転、内ヘルニアなどの急性小腸閉塞では、確定診断は困難でも病態の把握が容易であり、緊急度を判断することができる。頻度の高い急性疾患である腸重積や急性虫垂炎、肥厚性幽門狭窄症では、超音波のみで確定診断が可能であり、高次医療施設への転送判断を速やかに下すことができる。急性胃腸炎、便秘など日常的に遭遇する疾患では、内科的診療の妥当性を判断することに有用である。また触診で確信が持てない肝腫大、脾腫、腹部腫瘤などではその原因を明確化することが可能である。日常の外来診療で、身体所見に引き続き超音波検査を用いることで、腹壁の「壁の向こう側」を見ることが可能となる。

教育講演2

  • 9 月 9 日(土)10:40 ~ 11:40 G401+ G402(4 階)
  • 司会 : 西巻 滋(横浜市立大学)
  • 【専門医:小児科領域講習】(現地のみ)
川崎病の原因論 60 年の時空を超えたミステリー
  • 伊藤 秀一(横浜市立大学大学院 医学研究科 発生成育小児医療学)
 1961 年 1 月、川崎富作先生が初めての川崎病患者に遭遇されてから、既に 60 年の時を経たが、今なお川崎病の真の原因は不明なままである。川崎病の原因論は、小児医学の最大のミステリーのひとつと言っても過言ではないだろう。過去の研究の成果として、原因となりうる可能性を有する数種の感染症、人種や疾患感受性遺伝子、炎症性サイトカインを軸にした免疫異常などが明らかにされたのみであり、川崎病の発症から病態完成に至る過程は、数多くのピースを欠いたパズルの様である。私たちは環境省
が主導する 10 万人を対象にした前方視的出生コホートであるエコチル研究で、1 歳までの川崎病発症に、妊娠中期から後期の母親の葉酸サプリメントの摂取不足、妊娠中の母親の甲状腺疾患の合併、児の同胞の存在の 3 つの因子が関連する可能性を明らかにした。現在、母体血の葉酸濃度を用いた更なる検証を進めている。本講演では私たちの研究成果を含め、これまで発表された数々の病因論に関する研究を紹介するとともに、川崎病の発見の歴史と川崎先生の病因解明への想いについても改めて触れてみたい。

教育講演3

  • 9 月 9 日(土)16:00 ~ 17:00 G303(3 階)
  • 司会 : 瀬尾 智子(緑の森こどもクリニック)
ここまでわかる成長曲線
  • 伊藤 純子(虎の門病院)
 子どもは日々成長しており、正常範囲を逸脱した成長の異常は、子どもが何らかの問題を抱えているサインです。乳幼児健診や保育園・学校の健診で子どもたちは身長・体重を測定していますがこれを成長曲線(身長曲線、体重曲線、肥満度曲線)にするだけで読み取れる情報が格段に変わり、問題の早期発見の手がかりとなります。成長曲線からわかることとして、「成長曲線に基づく児童生徒等の健康管理と指導・支援実践マニュアル」には次のような項目があげられています。・適正な成長の確認 ・極端な成人低身長になる可能性のある児童生徒の早期発見と早期対応 ・病気が原因である肥満の早期発見と早期対応 ・単純性進行性肥満の早期発見と早期対応 ・病気が原因であるやせの早期発見と早期対応 ・いじめや虐待を受けている児童生徒の発見にも役立つことがある。成長曲線の成り立ちや正確な書き方、どのような成長をしている子どもに対してより詳しい検査を行った方が良いのか、などを具体的にお話ししたいと思います。

教育講演4

  • 9 月 10 日(日)10:20 ~ 11:20 G401+G402(4 階)
  • 司会 : 西巻 滋(横浜市立大学)
  • 【専門医:小児科領域講習】(現地のみ)
食べることを嫌がる乳幼児と養育者への支援 神話から科学的な対応へ
  • 大山 牧子(神奈川県立こども医療センター)
テキスト  本講演では、食べることの神話、介入を要する偏食の見極め、外来でできる具体的な対処について述べる。乳幼児健診や小児科外来など時間が限ら
れる時でも使える6項目からなる小児摂食障害のスクリーニング方法も紹介する。
 食べることに困難を抱える子どもの保護者に第一線で対処する医療者ができる提案は
  • 親が子どもに食べさせるための一切の強制をやめること。
  • 親がバラエティに富む食事を楽しむ様子を子どもと同じ食卓で見せる。
  • 食事を含む日常生活リズムを年齢相当にし、だらだら食べ、ながら食べをなくす。
 医療者がすべきことは
  • 慢性機能性便秘、扁桃肥大・慢性鼻炎などの上気道閉塞を見つけて適切に治療する。
  • 栄養面で介入が必要な場合とは、成長曲線から外れてきた場合は必ずまたは0−1歳で、固形食をほぼ食べていない場合は鉄欠乏を2歳以降で食べ
    る品数が極端に少ない場合(20品目以下)は鉄、亜鉛、ビタミン A, B1, C, D, 欠乏を疑いチェックする。
  • 食べるという微細な運動のためには体幹の安定が必須:椅子の調整ができているか確認する。

教育講演5

  • 9 月 10 日(日)13:00 ~ 14:00 G401+G402(4 階)
  • 司会 : 涌水 理恵(筑波大学)
子どもの発達を「感覚」から紐解く ~敏感さんと鈍感さんの子育て支援~
  • 高橋 香代子(北里大学)
 日々の診療において、こんな気になるお子さんに出会うことはありませんか。診察室の椅子をぐるぐる回す子、冬なのに半袖・短パンの子、など。これらの背景には「感覚」の過敏や鈍麻があると考えられています。例えば、椅子をぐるぐる回すのは、前庭覚が鈍感なので感覚刺激を探求して満たそうとしているのかもしれません。また、半袖・短パンの子は、触覚が過敏で特定の服の感触が苦手なのかもしれません。
 このように、子どもたちの不思議な行動の背景には、感覚の受け取り方(感覚調整能力)が深く関わっています。感覚は体や心の発達に大きな影響を与えることが示されており、感覚に焦点を当てた療育(感覚統合療法)も一定の効果が認められています。
 本講演では、さまざまな症例を通して、感覚と発達の深い関係性について紹介します。感覚について知ることで、子どもの理解を深め、対応のヒントに繋げていただければ幸いです。

教育講演6

  • 9 月 10 日(日)13:00 ~ 14:00 G301+G302(3 階)
  • 司会 : 伊藤 純子(虎の門病院)
  • 【専門医:小児科領域講習】(現地のみ)
育児ビッグデータからみた乳児の成長と発達
  • 鳴海 覚志(慶應義塾大学医学部小児科学教室)
 2010 年頃まで、医療やヘルスケアに関わる情報の大部分は医療機関で収集・蓄積されてきた。また、月経周期や育児日誌などを個人単位で記録する場合もあったが、デジタル化された情報とはなっていなかった。ところが 2007 年に iPhone がローンチされると、スマートフォンの世帯保有率は 2010 年に 9.7%、2015 年に 72.0% と爆発的な普及を見せ、これらヘルスケアに関わる情報が「家庭で」「リアルタイムに」スマートフォンアプリで記録されるようになった。この時流を受け、我々は 2017 年から育児メモアプリ「パパっと育児@赤ちゃん手帳」を運営する株式会社ファーストアセントと、2018 年から女性ヘルスケアアプリ「ルナルナ」を運営する株式会社エムティーアイと、それぞれ共同研究を行い、育児や月経周期に関わるビッグデータ解析を行ってきた。本講演ではこれらの研究を通じ明らかとなった知見について紹介する。これまで疾病の研究に重心を置いてきた医学において、ある種の盲点となってきた健康の幅(多様性)や影響因子についての話題を提供したい。

セミナー1

  • 9 月 9 日(土)9:10 ~ 10:20 G303(3 階)
  • 司会 : 田中 秀朋(あかちゃんとこどものクリニック)
小児科医と保護者がともにつくる「信頼の医療」へ ~ここ1年の新たな展開と今後の展望~
  • 阿真 京子(特定非営利活動法人 日本医療政策機構)
 ここ数年の環境や時代の変化によって、保護者の "" 変わったもの変わらないもの "" をお伝えする。そして「子どもの医療のかかり方」からはじめる、医療者と保護者の関係構築についてお話し、ここ1年ではじまった新たな展開~動き出している神奈川県と京都府の取り組み~と今後の展望についても発表し、全国的な流れへと発展させていく一助としたい。また現在本邦において大きな問題となっている「不登校」問題。その予防にもつながる取り組みとして、区立小学校の授業中に”いつでもだれでも来ていい居場所事業”を運用している。公立小において何ができるか、ともに考える場としていく。

セミナー2

  • 9 月 9 日(土)10:30 ~ 11:40 G303(3 階)
    司会 : 江田 明日香(かるがも藤沢クリニック)
医療的ケア児の保育園での生活
  • 遠藤 明子(社会福祉法人そだちの杜 ひびき金港町保育園)
 2017 年、一組の親子が私たちの保育園を訪れた。重症新生児仮死による脳性麻痺、経管栄養(胃瘻)による医療的ケアが必要であったこのお子さんは、翌年4月入園をした。その後、医療的ケアが必要なお子さんの入所希望が次々とあり、吸引、酸素療法、経管栄養(経鼻・胃瘻)、血糖値測定、 気管切開管理などのケアが必要な子どもたちを受け入れた。
 以来、ケア児への楽しい遊びと生活の場の提供、自らの命や人権を大切にしていくという子どもたちへの教育や保護者支援を実践してきた。その実践は、どの子にも等しく保育を行い、一人一人を大切にしながら寄り添っていくという職員の意識と保育の質の向上、そしてケア児たちの豊かな成長につながっていった。施行されて間もない医療的ケア児支援法のもと、集団の中で仲間と共に育ち成長していく子どもたちの報告を通して、その意義を明らかにするとともに、受け入れへの課題解決の一助を担うことができればと考えている。

セミナー3

  • 9 月 9 日(土)15:50 ~ 17:00 G403(4 階)
  • 司会 : 中野 康伸(中野こどもクリニック)
今こそ生かそう!こどもの心と身体に効く漢方
  • 森 蘭子(森こどもクリニック)
 コロナ禍で、こどもたちの心と身体は、大きな変化にさらされました。一般診療でも、心の問題を相談される機会が増え、改めてこどもの心の不調に多くの小児科医がとりくむことが必要であると感じます。東洋医学では、心身一如といって、心と身体は通じ合っていて、お互いに影響を与えるという考え方があります。漢方薬は、心と身体に働きかけ、不調を整えます。今回は、具体的な訴えや症状から、どのような漢方薬を用いるのか、また漢方治療を成功させるコツなどを交えて、こどもの心の不調へ漢方でアプローチするノウハウを解説します。涙もろくなる、怖い夢を見る、眠れない、ドキドキする、怒りっぽい、パニックなどの心の症状、また、心の不調がベースにあって、おなかが痛い、頭痛、疲れやすいなどの体の不調を伴う場合も、漢方薬は有効です。漢方薬で、多くのお子さんが笑顔になることを願います。

セミナー4

  • 9 月 10 日(日)10:10 ~ 11:20 G403(4 階)
  • 司会 : 中野 康伸(中野こどもクリニック)
楽しく学ぼう!こども漢方入門
  • 坂﨑 弘美(さかざきこどもクリニック)
 小児科領域でも漢方薬が使われるようになり、興味を持つ方が増えています。しかし、「詳しく知らない、特別な勉強をしないといけない」と敬遠されてしまう方も多いのではないでしょうか?さらに、「漢方薬ってほんとに効くの?まずいのに子どもが飲めるの? 」と思う方もいらっしゃると思います。実は、私もそう考えていたのです。しかし、実際は小児のプライマリケアに漢方薬はとても役に立ち、今では、外来ではなくてはならない存在になっています。まずは、漢方薬について知ること、少しでも興味を持っていただくことが、第一歩だと思います。このセッションでは、漢方薬の基礎知識を超簡単に、さらに楽しく解説します。また、知ってて得する代表的な処方について、さらに、こども漢方に必須である服薬指導についても説明します。ぜひ多くの方々に、漢方薬を身近に感じて頂いて、こども漢方のファンになって頂ければと思います。
Let's enjoy kampo !

セミナー5/メディカルスタッフミーティング

  • 9 月 10 日(日)8:50 ~ 11:20 G303(3 階)
  • 司会 : 蜂谷 明子(蜂谷医院小児科)
小児科における接遇を学びましょう!
  • 福田 智子(中北薬品株式会社)、蜂谷 明子(蜂谷医院)
 本セミナーでは、日常の接遇マナーを振り返るとともに、クレームの背景や相手の心理を理解し、クレームの初期対応時の基本ステップとスキルを確認します。 「マナーとは相手に対する思いやりの気持ちが形になったもの」 日常はもちろんのこと、ご家族の方から、苦情や不満を伝えられる際も、相手の気持ちに寄り添った対応をすることが大切です。 クレーム対応というと「問題解決」に注目しがちですが、実は、相手から、最初に声をかけられたスタッフの対応が要になります。この「初期対応」において必要な「あいさつ」と「傾聴」のスキルについてワークを行い、相手の気持ちや状況を受け止めるポイントを確認します。 また、身近な事例のロールプレイを通して、2次クレームを防ぎ、相手の満足度を上げる対応の習得を目指します。

委員会企画1/園・学校保健委員会

  • 9 月 9 日(土)14:30 ~ 17:00 G304(3 階)
  • ↑オンデマンド期間中も、当日会場内と同様に、スマートフォンやパソコンを使って匿名でそっと意見が伝えられます。
医療関係者が知らなかった保育園・幼稚園の現場の困りごとをよく知ろう
  • 須貝 雅彦 1)、田草 雄一 2)、保足 昌之 3)、田口 奈美 3)、富木 慶子 4)、鈴木 綾子 5)
  • 1) 医療法人社団おひさまクリニック 2) ぽよぽよクリニック 3) 土と愛子供の家保育所第 2 4) 東京都内保育園 5) 星川小児クリニック
 我々小児医療関係者は保育園・幼稚園 ( 園 ) と良好な連携を目指しつつも、自分たちの意図がうまく通じない、思うように進まないということを経験しますが、一方で子どもたちの生活の場である園について、我々はその現場をどの程度知っているでしょうか。
 保育士が子どもの健康面の課題について現場で「困っていること」を自ら発表、発信し、まずそれに耳を傾けることで小児医療と園とのよりよい連携を目指すことを目的に園学校保健委員会がこのシンポジウムを企画しました。
 まず、園での課題である感染症対策やアレルギーなどのテーマごとに現場での「困りごと」の経験や意見を保育士が発表します。
 そして、会場参加者からの意見や質問は、スマートフォンを利用したテキストメッセージで司会者に送るという形にしました。これにより保育士のみならず、会場参加者も緊張せずに発言することができると思います。
 さらに、医師から保育士に向けての簡潔なアドバイスも用意しました。
 何より子どもたちの生活の場である園についてよく知りたい、という皆さんはぜひ参加してください。現場の「声」を聞いて、あなたからの「メッセージ」も聞かせてください。

保護者を介さない保育園側の思いと医療側の思い
  • 保足 昌之(土と愛子供の家保育所第 2)
 日々の子どもの育ちを見守り、保護者とともに近くで寄り添っている保育園。しかし、病気になった時には保育園でやれることは限られています。病気になってしまった、障害の疑いがあるかもしれない・・・そのような時には医療機関との連携が必要になってきます。
 その連携はほとんどの場合は直接のやり取りではなく、保育園側と医療側の間にいる保護者になります。子どもの状況とともに保育園での状況を保護者が医療に伝え、医療から伝えられたことを保護者を介して保育園には伝えられることがほとんどです。そのような状況が多い中で、保護者から伝えられたことについて、お互いが「ん? 」と思ってしまうことがあるのではないでしょうか?
 子ども、保護者とのやりとりを日々行う保育園として、現場で感じている病気や障害のことなど直接医療現場で働いている人たちに伝えられる機会というのはほぼないので、この機会に保育現場と医療現場、双方の理解が少しでも進んだら嬉しいです。

委員会企画2/生涯学習委員会

  • 9 月 9 日(土)14:30 ~ 15:40 G303(3 階)
  • 司会:藤森 誠(藤森小児科)
  •  
    ↑当日会場内でスマートフォンを使った「その場でアンケート」を実施します。
e- ラーニングのすすめ-自分の知識の確認と立ち位置を知る-
  • 長井 健祐(長井小児科医院)
 2019年10月に web 版「e- ラーニング外来小児科 Q & A」がスタートし 4 年が経過しました。本システムは、成人学習の主理論である“自らの診療の振り返りと立ち位置を確認する”ことができるように構築されています。実地臨床の場ですぐに役立つ問題を提供しており、単に正解を導くことや知識を得ることだけでなく、解説文と参考資料を通して自己学習を進めることができます。他の利用者の回答率を知り、各問題のコメント欄や談話室形式での会員間の意見交換も可能で、自分の診療を見つめ直すことができます。スマートフォンなどモバイル機器でもアクセスできますので、スキマ時間を利用してアクセスしてチャレンジしてみましょう。本セミナーでは、会場の皆さんと WEB 版アナライザーシステムを使いながら、「e- ラーニング外来小児科 Q & A」の優れた効能と効果をお伝えできればと考えます。スマホ・タブレットをご持参の上ご参加ください。

委員会企画3/倫理委員会(倫理講習会)

  • 9 月 10 日(土)16:00 ~ 17:00 G404(4 階)
  • 【専門医:共通講習(医療倫理)】(現地のみ)
研究計画書における倫理的配慮のポイント ~倫理審査委員会の視点から~
  • 三品 浩基(神戸市こども家庭局)
 人を対象とする医学系研究を実施する場合、あらかじめ研究計画書を作成し、倫理審査委員会の承認を得ることが一般的な手続きとなっています。そのため、研究者は、定期的に研究倫理の研修を受け、研究に関する法令・倫理指針に精通していることが求められています。
 一方で、本邦の倫理指針は数年ごとに改正が行われており、動向に注目しておく必要があります。現在の「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」は 2021 年に施行され、その後、2022 年に一部改正、2023 年にも一部改正が行われています。最近の倫理指針の改正点を踏まえつつ、インフォームド・コンセント、個人情報の保護、利益相反の管理等、とくに倫理審査のポイントとなる手続きを中心に解説させていただきます。
 また、いくつかの研究事例を題材として取り上げ、さまざまな倫理的配慮を要する理由や背景についても理解しやすいように努めたいと思います。

委員会企画4/『診療に生かす、臨床研究とガイドライン』 研究部会・診療ガイドライン委員会 共同企画

  • 9 月 10 日(日)8:50 ~ 10:00 G401+G402(4 階)
  • 司会 : 西垣 佳織(聖路加国際大学大学院)、杉村 徹(杉村こどもクリニック)
グラム染色を診療に導入した結果を臨床研究につなげて
  • 前田 雅子(まえだ耳鼻咽喉科クリニック)
 私たちは 2004 年から抗菌薬の処方根拠にグラム染色を活用していますが、とりわけ染色画像をリアルタイムに保護者に提示・説明する取り組み(供覧)をはじめた結果、抗菌薬の種類、件数ともに大きく変化しました。供覧が保護者の心情にどのように影響したのか、その理由を明らかにしたくとも不明のままでした。しかし、日本外来小児科学会年次集会で開催された質的研究に関するワークショップに参加したことをきっかけに、心情の変化を質的研究で解析できることを知りました。質的研究方法検討会に参加し、専門の先生方のご協力をいただき、意識変化を解析するためのプロトコール作成、本学会の調査研究方法検討会および倫理委員会による承認を経て、臨床研究を実施しました。その結果、抗菌薬使用に対する保護者の認識は、複数の局面を経て変化したことが解明され、質的研究の有用性を実感しました。私たちの取り組みと研究を例に、質的研究の有用性をお話しします。

診療に生かす、臨床研究とガイドライン -ここまで変わったガイドラインの作り方・使い方
  • 伊藤 純子(虎の門病院)
 「診療ガイドライン」は「健康に関する重要な課題について、医療利用者と提供者の意思決定を支援するために、システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し、益と害のバランスを勘案して、最適と考えられる推奨を提示する文書(MINDs)」と定義されています。 日常診療はこのような「選択」の連続です。逆に言えば「選択の余地がない」所にガイドラインは必要ありません。病気のスクリーニング,診断,対処法、効果,予後までの全過程でどのような選択を行ったらよいのかを、吟味された証拠を基に示したものが,「エビデンスに基づいたガイドライン」で、選択項目を「クリニカルクエスチョン」として並べているので、読みにくいと感じられる面もあります。それを補うために、診療全体の流れを「スコープ」として示し、最初に解説を入れているガイドラインが多くなっています。選択に際しては、患者の好みや地域の事情も反映させる必要があり,患者や市民を含めたいろいろな背景を持ったメンバーが参加する必要性も強調されています。 現在作成進行中のガイドラインについてもお話ししたいと思います。

委員会企画5/『“一歩踏み込んだ”授乳と補完食に関する情報』 授乳と補完食に関する検討会主催 Special Interest Group

  • 9 月 10 日(日)8:50 ~ 11:20 G301+G302(3 階)
  • 司会 : 井上佳也(井上こどもクリニック) 谷村 聡(たにむら小児科)
授乳と補完食に関する最近の動き~フォローアップミルクとベビーフードについて考える~
  • 名西 恵子(東京大学大学院医学系研究科)
 Lancet 誌は今年”Breastfeeding 2023”として特集を出し、先鋭化している乳幼児用ミルクのマーケティング手法を詳細に分析し、母子の健康への悪影響を明らかにした。乳幼児用ミルクの製造販売は巨大産業である。人工乳やフォローアップミルクの広告費は年 55 億ドルに上り、WHO の2年分の活動費を上回る。乳幼児用のミルクのマーケティングには、国際規準がある。WHO 加盟国の 74% が国際規準に基づく法整備をしいているが、日本には法的規制がない。そのため国際規準違反のマーケティングは、我が国では大々的に行われている。Lancet 誌では、マーケティングは医療従事者を巻き込み、親の育児への不安や期待、医療への信頼を利用して行われることを明らかにした。本講演では、医療従事者がマーケティングに利用されるのではなく、母子を中心に据えたケアを実践するためにどのようなアクションが必要であるのかを考察する。

混合栄養がいいって、ホント?
  • 多田 香苗(林間こどもクリニック)
 近年、混合栄養の方が、アレルギー予防や母の疲労軽減、父親の育児参加にとって有益であるとの主張を散見する。しかし、母親の授乳困難感は、混合栄養の場合が最も多い。(厚生労働省「平成 27 年乳幼児栄養調査」)医学的に必要がない補足の理由として、母親の母乳不足感が挙げられ、それは、母親の自己肯定感の低下に繋がる可能性がある。また、母乳分泌の生理に基づかない補足は、二次的な母乳分泌不全を招き、早期の母乳育児の中止のリスクとなる。母乳育児の感染症などへの予防効果をはじめとする母子双方への重要性は、日本を含め多くの先進国で確認されている。母乳育児のメリットは、母子ともに量依存性であり、より長くより多く母乳を飲ませることが重要である。ここでは、UNICEF UK やアメリカ小児科学会(AAP)のなどの資料をもとに、適切な補足量の評価法、Paced Bottle Feeding、臨床の場での支援方法など「母乳を減らさない混合栄養」「なるべく母乳が長続きする混合栄養」の方法を述べる。

母乳育児を支援する-赤ちゃんの鉄欠乏を中心に-
  • 冨本 和彦(とみもと小児科クリニック)
 母乳には非栄養素の側面と栄養素の側面があり、栄養素だけの議論に巻き込まれてはならない。栄養素としての母乳にはビタミンD(VD)と鉄の不足がある。まず出生後1歳まで天然型VD400IU/日の補充を行う必要がある。
 鉄欠乏と神経発達の関連は、動物実験や観察研究では示唆されるものの、結論は出ていない。正期産の母乳栄養児では乳児期後期には母体から移行した鉄が枯渇し、適切な補完食が与えられない限り、57.3%が鉄欠乏に陥る。現時点でこれは修正すべきものと考えられるが、アプローチはまだ確立していない。乳児期にはヘプシジン系の制御が未熟なため、一律に鉄補充を行うと一部には過剰となり、逆に神経発達と腸内細菌叢に悪影響をもたらす。母乳栄養児には、補完食での積極的な鉄摂取を勧めた上で、鉄欠乏リスク(男児と体重増加率)に応じて鉄充足状態を評価するが、欠乏例に対する適切な鉄補充方法については今後の検討課題である。

乳幼児の栄養とマーケティング
  • 瀬尾 智子(緑の森こどもクリニック)
 日本では出生数の減少にもかかわらず、ベビーフードの売り上げが増加している。日本のベビーフードはエネルギー密度やタンパク質・鉄の含有量が少ないので、使用する場合は、栄養の内容や量、費用を考慮する必要がある。また、最近は乳児の鉄不足対策をうたったフォローアップミルクのマーケティングも盛んである。フォローアップミルク中の鉄は吸収が悪く、乳糖以外の糖が含まれ、母乳や乳児用調整乳よりもタンパク質が多い。鉄の補給を目的としてフォローアップミルクを使用すると、エネルギーやタンパク質が過剰になる可能性がある。フォローアップミルクを摂取することにより、他の必要な食品の摂取量が不十分になることも懸念される。鉄に関しては、ヘム鉄を含む動物性食品を食事から摂取することが望ましい。乳幼児の健康を守る専門家は、ベビーフードやフォローアップミルクについての正確な知識を得た上で、どのような支援ができるか考察する。